おいしさの科学(その2):トマト編
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野菜のおいしさを語るとき、まず考えるのは「新鮮さ」でしょう。新鮮で、色合いが美しくみずみずしい野菜を考えるでしょう。しかし、野菜においしさを感じるのは新鮮さだけでしょうか。
赤いトマトはおいしい?
今回はトマトを例に、野菜のおいしさ考えてみましょう。
トマトは外見(形や色まわり)はもちろん、「比重の重いもの」がおいしいとされます。比重の重さは水につけてみるとすぐわかります。当然重くて沈むものの方が、果肉が緻密なのです。
次に色合いについて考えてみましょう。トマトといってピンとくるのが、リコピン(脂溶性の赤色色素)です。赤い皮の色素はカロテノイドです。トマトのリコピンはβカロテインが生成される前段階での過程で存在する化合物「カロテノイド」の一種で、活性酸素を消去する抗酸化能力を持ち、動脈硬化や生活習慣病にかかりにくくします。
おいしい話に戻りますが、樹上で熟したトマトは真っ赤になり、おいしそうですね。成分的にもリコピン・アミノ酸が多く含まれると同時に、遊離グルタミン酸が増加することが、多くの分析試験でわかっています。この遊離グルタミン酸こそがうま味の成分で、トマトの味をよくしているわけです。
要するに、トマトをおいしいと思う感覚はトマトの「うま味」成分からもたらされます。グルタミン酸とイノシン産に代表されるうま味成分を多く含むトマトに、我々はおいしさを感じているのです。
糖と酸の量で味を計る
トマトは収穫時期によって成分構成が変化し、味が変化します。おいしいトマトの要件は甘さと肉質、鮮度、味ですが、農家や流通関係者は何を指標として使っているのでしょうか。
答えは「糖酸比」です。糖酸比とは「糖分の量」÷「酸の量」で求めた数値、つまり甘味比のことです。トマトの場合は3.2/0.37=8.6です。果物場合も8~12くらいがおいしいとされています。トマトの8.6は温州みかんとほぼ同等です。
収穫時期によって成分構成が変わるといいましたが、当然、味も甘さも変わるわけで、糖酸比でいう糖度や甘さについてふれておきます。トマトの甘さは単糖類(フラクトコース、グルコース)によるものです。グルコースは、代表的な単糖類でブドウ糖のこと。人はもちろん動物が食物として摂取したデンプンやショ糖は、体内でアミラーゼ等の酵素で分解され、グルコースになります。これらを多く含むトマトは糖度が高いものとして甘くておいしいとされます。一般的にはトマトの糖度は3~6%です。
品種改良で酸味をおさえる
2007年7月2日に東京都農林総合研究センターの試験場でトマトの検定があり、農業普及員の特別研修にオブザーバーとして参加しました。ハウス栽培のトマトの様子などを見せていただいたあと、昔からの品種の「瑞栄(ずいえい)」「強力米寿(きょうりょくべいじゅ)」「強力米寿2号」「ふじみ」等のほか、最近よく出回っている桃太郎の10種類ほどを試食し、数人で食味を検定しました。
その結果、昔のトマトには酸味があり、現在の品種になるほど酸味を押さえ甘味を強調する余り、どれもこれも似たような味になっていました。品種ごとの味の特色が薄れてきて、一律に甘いだけのトマトになっているように感じました。
「桃太郎」は商品としてデビューして20年経っていますが、青臭さや酸味を年々おさえるために、最初の桃太郎から桃太郎T-93、桃太郎8、桃太郎ヨーク、桃太郎ファイト、桃太郎J、桃太郎コルト、桃太郎はるか、桃太郎なつみと、多くの種類が生まれています。このほか、「スーパー優美」「麗容」と名札がついてるからわかるようなものの、わずかな甘さや口ざわりを求めて20年の間、トマトの改良(?)がなされてきました。
また、桃太郎がデビューする前に全盛を風靡していた「米寿」は、88歳ということで「80年は販売しつづけたい」と種苗メーカーがつけた名前だそうです。しかし、日本人の食生活が大きく変わった1980年に、スーパーマーケットのダイエーの売上が1兆円を突破するなど、流通本位の野菜づくりが進むにつれ、人々の味覚感覚も甘くクセのないの野菜を好むようになってきてきました。その結果、米寿の寿命は80年もたなかったようです。
それと並行して、調理野菜(ドレッシングいっぱいのサラダ)がデパ地下にふえ、すぐ食べられる便利なカット野菜が商品として並ぶようになりました。こうした動きの反動からか、最近になって野菜本来の味を懐かしむかのような「伝統野菜」の見直しが叫ばれるようになっています。
